秘めた力

*あかねのイタリ珍プレー*



球目秘めた力

夏休み、私はみんなのマネしてヴァカンツァをぎりぎりに計画して、

ミラノで働いたお金でパリへ行った。

パリでの旅行中の私は、毎日毎日食べる以外は歩きっぱなしという感じで、

10分でも時間を無駄にしない、そんな旅をしていた。

実際、帰る日でさえも。
ぎりぎりまで・・・と思い、

ヴァンセンヌの森にある動物園へ写真を撮りに行っていた。

ところで雨女&雪女の私にしては幸運な事に、パリを旅している間は比較的毎日良い天気に恵まれた。

私がミラノへ帰る日も例外ではなくピーカンで、気温もかなり高かった。

そんな中、ヴァンセンヌの森ではその炎天下の状況が私にとってもなかなかの強敵だった。

ヴァンセンヌの森はパリの郊外にあって、地下鉄でもかなり端っこの方。

それだけに敷地面積がものすごいため、森への入り口もあちこちに散らばっていた。

私はお友達から借りたガイドブックを手にしていたものの、ヴァンセンヌの森に関しては

書いてることがさっぱり分からない。

いや、あんな場所を説明すること自体が難しいのかもしれない。

地下鉄を降りてからは、確かに目の前に森らしきものは見えるものの

ガイドブックに書いてある地図の方向がいまいち分からなくて途方に暮れた。

いや多分、今までガイドブックひとつで何処にでも行けたために、

さほど地図とにらめっこしなくても現地に行けば何とかなるだろうと思っていたのだろう。

とりあえず中に入ったものの動物園の、どの字も見えない。

道しるべのようなものはあるものの、ZOOなんて文字はどこにもでてこない。

ところどころで地図を見ながら歩いたけれど全然ダメ。

これ以上行っても違うだろうと思い、行った道を戻ったりして・・・森の中で憩っていた人たちは、

東洋人の女の子が一人でうろうろしてるなあと思っただろう。

そんな感じであちこちを一生懸命に歩いていると湖に辿り着いた。

これは良い目印になる!さっそく地図を開いて見ると確かに湖が書いてある。

そうやっと、微かに方向がつかめてきたのだ。

たぶん・たぶんこっちの方向だ・・・!

そりゃあもう必死になって歩いた。

すると見えたよ、木々の中から動物園の入り口が!


これで辿り着かなかったら、諦めてもう1つ行く予定だった場所へ向かうところだった。

そう思いかけたくらいその森は広大だった。

それに飛行機の時間もあるわけで、そんなに余裕がなかったし。

それでもパリの動物園で写真を撮りたいという欲望は強く、あともうちょっとだけ探してみよう。

この気持ちが結局は実を結んだわけだ。


動物園で過ごした時間は確か約2時間くらいではなかったかと思う。

地下鉄の駅に向かいながら時計を見て、まだ少し時間に余裕はありそうだけど

そろそろ空港に向かった方が良いだろうと思い 預けてある荷物を取りにホテルへ戻った。

さっきも書いた“もう1つの行きたいところ”というのは実はホテルの真ん前にあったので

「ああ、結局行けなかったなあ・・・」と横目に見ながら・・・。


ところで、空港へは帰りこそバスで行くことができた。

帰りこそ、というのは・・・行きはタクシーで来てしまったのだよ。

あのシャルル・ド・ゴール空港のアホのような広さに・・・くじけてしまって。

しかしっ、オペラ座のところからでる空港バスはけっこうわかりやすかったため、

乗った瞬間はほっとしていた・・・のだけど。

これがけっこう時間がかかる!空港が見えてきたはいいけど停留所がたくさんあって

あ〜らららこりゃ大変。


私は一体どこで降りるの?


い、いかん。何はともあれそろそろ降りなくては・・・。

時間がさしせまってきた。

いや、さしせまってきたどころじゃない、これじゃあ本当に間に合わんぜ!あぁた。

まずい、非常にまずい。

こんなさびれたところからアリタリアの飛行機が飛ぶわけがない。

ターミナルが違う!

これはもう、インフォメーションに聞くしかない。

だけども、フランス語も英語もしゃべれないのにどうしたらいいんだろう。

な〜んて悠長に考えるヒマなんてなかった、もう本当に時間がなかったため・・・。

いや〜ああいう時って、火事場のくそ力(下品?)がでるもんで、

なんと私の口からは『アリタリアに乗りたいんだけど、どこですか!?』という英語が

流れ出たのだよ!!

普段はイタリア語に占領されてる私の頭の単語帳に、英語がでてきてくれたのだ。

しかもそのインフォメのお姉さんも『はい』と笑顔で教えてくれたのだ。

通じたのですよ!皆さん。

さあ喜んでいる場合じゃない、これはヘタすると本当に乗り遅れる。

お姉さんに教えてもらった通りのターミナルへ移動すると、ああ懐かしきアリタリアの

模様が見えてきた。

しかしまだカウンターがなく、人がいない。

お願い誰か、イタリア人いてくれ〜!!

そこへ現れたアリタリアのおねえさん!

パリの天使かと思った(またまた大ゲサ)。

だってだってやっとこの空港の中で、言葉の通じる人が見つかったのだから。

私は息を切らしながら彼女のもとへ行き、『こんちは!まだ大丈夫ですか!?』と言った。

『は〜い、ちょっと待って下さいね』とあたしのチケットを調べ始めたら即、こう言った。

『あ〜ららららら』

お互いに一瞬笑ってしまったけれど、私はもうたたみかけるように話した。

『ここを探してたんだけど、わかんなくって。助けてちょ〜だい』

『大丈夫、大丈夫』

と私を制して手続きをしてくれて、もう一人のアリタリアの人が『私と一緒に来て下さい』

と言って全速力で走り出した!

もうその間の事は覚えていない、とにかく必死だった。

飛行機に乗る直前のところで手書きの座席番号をもらって機内に乗り込んだ時は、もう

この上ない安らぎの境地。

周りを見渡せば(あたしのせいで離陸を待たせたので多少睨まれたが・・)イタリア人だらけでほっとしたし、
この飛行機を次に降りるときには
馴染みのあるミラノだ。もうどうとでもなる。

あの時私は信じられないくらいにこう思って安心していた。

「故郷に帰ってきた!」


あれで乗り遅れてたらどうなってのだろう、買いなおしだったのかな。

今考えても恐ろしいけれど、あのパリ旅行は最高に楽しかった。それは間違いなくそう。