S班

*あかねのイタリ珍プレー*



球目S班

夏のヴァカンツァでパリへ一人旅した時、2日目にあのルーヴル美術館へ行った。

ルーヴル美術館といえば、世界的にも有名で歴史も古くヨーロッパの中でも最も古い美術館の一つ。

そして行った事のある人の口から必ず出る話題は、美術館の驚異的な広さ。

そして、入るまでに何時間も待つということ。

その2つは経験者の数人から聞かされていた。

なので、自分の中でもパリ旅行前半の目玉はこのルーヴル美術館だと思っていた。


あたしは美術館が好きだ。

特に絵画や彫刻といった芸術作品が激しく好きと言うワケではない、自分で絵を書くなんてもってのほかだし。

だけどなぜか、コツコツと靴の音をたてながら1人で美術館を歩くのが大好きなのだ。

あの静まり返った空気が好きなのかもしれない。

そしてあたしは、ホテルを出て地下鉄を乗り継ぎルーヴル美術館へと向かった。

その日も暑くていい天気、美術館の手前にある大きな公園でまったりとしたくもなったが

なるべく時間は切り詰める方が良いと思い、写真だけ撮ってその場は通り過ぎた。

すでにルーヴルの大きな建物が見えるが、何だか入り口も良く分からない。

勘だけで動いているあたしは例によって、とりあえずこっちでいいかと思った方向へ気ままに行く。

建物をくりぬいたような門を通り、真っ直ぐ前を見ると

話に聞いていたガラスのピラミッドが見えてきた。

あれだ、あれが入り口のはずだ!

いやぁ〜すごいわぁ、きれいだわぁ・・・・・・・・・・って

えぇぇえぇえ!??

感動したのも束の間、よくよく見るとそのガラスのピラミッドに続く

人・人・人・人・人!!!

一瞬あまりの光景に、それが何の為の行列なのかがわからなくなった。

いや、落ち着け。

あれこそ噂に聞いた。

美術館に入るのを待っている人の列なのだ。

そうだよ・・パリに限らず、人気のある美術館に入るのに3時間とか待つのは

観光シーズン中ならどこでもあることなのだ。

わかってはいたものの、今までここまでの行列を目撃した事がなかったので正直驚きが隠せず・・・。

ああ・・今までラクをしすぎたのよ・・・

フィレンツェのウフィッツィ美術館はチケット買って、はい2階上がってくださーい

あぁら誰もいないて感じで入り、有名なボッティチェッリの春やヴィーナスの誕生だって

盗めるくらい間近でじぃーーーっと見れたし。

ローマのバティカン美術館だって2回目に行った時は並んだものの、1時間くらいで入れたものだ。

と、気が遠くなりそうになりながら最後尾に向かった、が・・・

えーすみません、この列に最後というのは存在するんですか。

パリからコートダジュールまで続いているのかと思われた、どこまで行ってもバテている人々の顔しか見えてこない。

数分後やっと最後尾に辿り着いたが、今まで見てきた人の分待たなくてはならないのだ!

ふふふ・・おもしろいじゃない、やってやろうじゃないのぉ。

と、何と戦おうと言うのかナゾの決断をし、それから

30分

暑い・・・

列が進むスピードも亀の歩み、

ノドも渇いているところを移民の黒人さんがペットボトルの水を売りにくる。

こいつぁなかなか過酷な修行だ・・・。

そして2時間くらい経ったか・・、やっとガラスのピラミッドが見えてきた。

今までは日陰になっているところで並んでいたが、入り口が近くなると炎天下の中で順番を待たなくてはならない。

そしてあたしは言い聞かせた、これが・・これが最後の試練だわ・・。


そして

やっと


セキュリティチェックを受け、ピラミッドから地下へ降りてナポレオンホールへと。

ん〜ナポレオンホールなんて、いかにもって感じの名前・・・まあ、そんなことは

さておき

これだけ待ってやっと憧れのルーヴル美術館を探索できるのだから

さっさとチケットを買って進みたいところだが。

午前中の早いうちからホテルを出て並んでいたにもかかわらず、すでに現在時刻はお昼。

あたしの、人よりちょっとだけ食い意地のある胃は悲鳴をあげている。

ちょうどカフェもあるし、出陣の前に腹ごしらえしよう。

どんなに時間がおしてる時でも、お腹が空いてしまった時はゆっくりと食事をとるべし!

・・・


さて!美味しいものも食べたしいざ!

邪魔なカバンはクロークに預け、まずはチケット売り場でとってきた館内の案内パンフを開く。

記念用にイタリア語のも取ってきたが、今は悠長に語学勉強しながら見物する時ではない!

これは戦争なのだ!!

まあ、何だかよくわからないが・・・ともあれ開いたのは日本語のパンフ。

ルーヴル美術館は展示物の種類によっていくつものエリアに分かれている。

さてまずは、最も効率よく観る為に歩くルートを決める。


今その見取り図を取り出して見ても、よくぞ自分がこの見取り図一つで歩けたものだと思える。

とにかく広かった

自分がどれだけこの美術館を回るのに力を入れていたのかがわかる。

見取り図はその一日で、何年も使いこんだ辞書のようになってしまった。


さて、その時決めた細かいルートは今ではサッパリ思い出せないが

ナポレオンホールで一人、ものすごい真剣な顔でじりじりと見取り図を見つめた後

意気揚々と歩き出した!!

それからのあたしは

とにかくもう

早歩き


それでも決して!

1つたりとも作品を見逃さず。

ああ・・あの時のあたしは、瞬きをしていたんだろうか・・。

ゆっくりと1つ1つの作品に目を通す人達を尻目に、とにかく早歩きで作品を見て回った。

それでもさすがにルーヴル美術館のメインともなる[モナリザ]ではしっかりと足を止め、

じっくり見てやろうと思っていたが・・・・

それは当然モナリザ、ものすごい人だかり!

見えない・・・見えないよ・・・。

そこは欧米人ばかり、160cmくらいのあたしには背の高い人ばかり。

一生懸命背伸びをしたものの、人の頭が邪魔してモナリザの全体を見る事は出来ず・・・。

少し待っていたら前に進めるかとも思ったが、なかなか進まない。

時計を見て

仕方ない・・・ともあれ見た事は見たから・・・先に進もう・・。

その時のあたしはまさに、街中でダンボールに入ってみぃみぃ泣いている子猫を見捨てて行くような心境だった・・。

ミロのヴィーナスは結構人がいなくて、しっかりと見る事が出来たが早々と見て次へ進んだ。

本当ならあと10分くらいは見つめたかったんだけどなあ・・。


そして、途中あたしはカフェで休憩をとりつつも

見事!3時間ちょっとで完走することが出来たのだ!

焦って見て足も痛くなった割には、すごく楽しかったという思いが残り、

さて次はセーヌ河でまったりしようとまだまだ元気いっぱいだった。

そして、最初の場所ナポレオンホールへと戻り始めた。

するとなぜか

ロフト調になっているナポレオンホールの上に、ぐるーっと囲むように人がたくさんいる。

行ってみて下を覗くとホールには降りられず、真ん中の柱のところに人が2人いるのだ。

あんなににぎわっていたホールが、まるで違う場所のように見えたくらいだ。

何分か前にも一度ここを通ったのに、その時はこんな事にはなっていなかった。

一体これは何!?

とりあえず帰る事も出来ないしみんなと同じように下を見ていた。

見ているとどうやら、下にいるその2人の手元には何かがあるようだ、そこでごそごそとしている。

さっぱり何だかわからない。

ちょっと・・・これからあたしはセーヌ河に行くのよ!まだ陽が昇っているうちに行きたいのよ!

と、少しプリプリしながら見ていると

急にその2人が上にいるあたし達に向かって耳を押さえ始めた。

どうやら「耳を押さえて下さい」と言っているようだ。

みんなが押さえ始めるのであたしも押さえた・・・。

そこであたしはピーンと来た。

まさか

爆弾・・・・か・・・?

この年、イタリアでも所々で爆弾の噂を聞いていたので、異次元の出来事ではなく容易に想像がついた。

案の定少しすると耳を押さえているにも関わらず


ドォーーーーーーーーン


有り得ないデカさの大音量!!

これには、外国でのトラブルを楽しんでしまうあたしも

もう・・・ビックリ!!

自分で見て確認はしていないが、まさに鳩が豆鉄砲くらったような顔だったろう。

そしてまた少しすると、ホールが開放され人々が下へと降りて行く。

あ、あ、あ、あたしのバッグ大丈夫だろうか!!!?

今度はその事がものすごく不安になり、どっきどきし始めた。

さすがに財布はポケットに入れて持ってきたが、

それより何より大事なパスポートが入っているのだ!

その時あたしはなんて自分がアホだろうと責めた。

外国でいっちばん大切なもの、それはパスポートなのだ。

ドキドキしながらクロークに行ってカバンを受け取り、焦って中身を確認!

あった・・・良かった〜〜・・・・・。

とにかく安心した、爆弾騒ぎにはあったものの、

きちんと処理してくれたし、

誰の命にも別状はなかった。


とりあえずホっと安心しながら、

また、いい経験しちゃったわぁ・・・とのん気な事を思いながら

また元気にセーヌ河へと歩き始めたのであった。